第9章 五条求婚する
「出てこい!居るのは分かってんだぞ!」
『そりゃ見えてるもんねぇ!』
「伏黒ーなんか刀の呪具もってなかったっけ?」
静まり返る教室。
籠城した私と追手のふたりは伏黒の後頭部を見る。こういった悪ふざけにはそんなにノッて来ないのは知ってる。こりゃあ次の座学始まるまで籠城すりゃあこっちのもんよぉ!
この教室内、沈黙が支配をしていた。
伏黒がはぁー…と、ため息を吐きながらゆっくりとした動作で横顔を見せる。机に本を置いたようでぱた、と小さい筈の音がこっちまで聴こえた。
その後体を傾ける、片手を床に向けて。
ズズ…と影に突っ込んだ手には刀の柄。虎杖のリクエストに応えて取り出したようだ。
「ほら、虎杖…後で返せよ。雑には使うな」
「サンキュー!」
『嘘だッ!伏黒はそういうのにノらない筈っ…!』
ちょっと消しゴム貸してー、くらいのノリで武器の貸し借りをしている男子を見て逃げ出そうにも目の前には舌舐めずりする釘崎。両手に"怒髪天"特製の縄を握りしめる姿はかつてホラーゲーム界を騒がせた青鬼を思い出させてくれる。
「逃さないぜぇ~?」
『ひぃっ!』
……抵抗も虚しく。籠城も効かず。
虎杖がザクザクと斬ると大部分が消えていった遺髪のバリケード、囚われた宇宙人の様に両側から拘束され尋問が始まってしまった。
『何故伏黒が協力したのかが分からん……』
「様子がおかしかったから、だな。だったらこっちのふたりに協力しとこうと。別に悪ふざけに加担してるワケじゃねえよ」
引き続き本を読み始めた伏黒。
賑やかなふたりには私は席(自分の)に座らされて、両側に配置されている。左に釘崎右に虎杖。椅子の背もたれに片手、机にもう片手。なんだこのフォーメーションは。打ち合わせでもしたんか?
「あと3分以内にお願いねー、じゃないと3限目の後にこれやる事になるから」
それはキツイ。
私は口ごもった後に観念して肩を落とした。視線も下に。
『あの……………』
「沈黙が長いっ!」
『単刀直入に言ってしまえば……私の名字が近々変わるかしばらくしてから変わるか的な問題、です…』
「は?」
3限目が始まる合図。
教員が教室に入ってきて真っ直ぐに私の元にやって来る。手にあるのは大きな封筒。
私を挟む様に囲む、新時代の騎馬戦のようなポーズの虎杖と釘崎にちょっと怯えながら大きな封筒を私に差し出した。