第8章 スキルアップ
62.
午後からの授業。
遅刻はしたけれどしっかりと補習まで受けた。
もちろん、あの後に教室に行けば察した釘崎がにやにやとしていて"そんなに所有物って主張したいんかねー"と零していて確かに同意見ではあるけれど、近くまで送って(という口実で)来ていた為に変なことは言えず。
補習を終わらせた後は一度はそれぞれの部屋に帰っている。私も制服を脱いで部屋着に着替えて、洗濯物を片付けたりして時間が経過していけば悟が自身の使っている部屋での用事を済ませて壁をくぐり、私の部屋にと合流した。
「へい、大将やってる~?」
暖簾も無いのに屋台と勘違いしてないか?と思いながらも、毎度のことで壁をスライドさせてやってきた悟を拒否することはなくそのままの対応で。
楽しげにやってきた悟の顔を一度見て、私は冷蔵庫から本日の夕食の材料を取り出していた。
『大将準備中』
「今日何作るのよ?」
『鶏鍋をね。前に虎杖が言ってた肉団子、あれが食べたいなーって』
少しずつ部屋に生活用品が集められてる中で悟はキッチン下の収納から土鍋を取り出す。そんなに鍋やらないのによく収納とか把握してるよなぁ…この部屋の住人かよ、とツッコミたい所。
「鍋ねー、良いじゃん?僕こっちの食材切ってるよー」
『ん、さんきゅ!』
悟は部屋に来てから特にるんるんとご機嫌だった。
キッチンで土鍋に手慣れた様子で切っていった食材を入れている。豆腐のパッケージからフィルムを剥がし、水を切っている時にふわりと良い匂いを感じた。なんの匂いだ?と思ったけれどその原因はすぐに発覚する。
補習後に部屋に帰った時、私服に着替えた際に軽く香水を付けたのか、悟の側と通った時に良い香りがした。この匂いか、と納得したけれど。
鼻に残るようなキツい匂いとか気持ち悪くなるような強すぎる匂いだとかそういう安っぽいものじゃない、相当良い匂いで芸能人とかが好んで着けそう(いや、流石に至近距離で嗅ぐ事はないけれど)
フェロモンを煮詰めてふりかけたのかと言いたいほどに、香りだけで悟を意識させるようにドキドキとさせてくる。
『ちょっとトイレ行ってくるから』
「了解!続きやっとくよーん」