第2章 視界から呪いへの鎹
「さてと…おばあちゃん。お孫さんに何か加工してるでしょ?それ解いてあげないと見ての通り早死にしちゃうんだよねー、それにもしも適正あるなら呪術を教えてあげてくれない?だいぶ身代わりの式髪発動してるからさ、春日家全滅しちゃったらおばあちゃんも困るでしょ?」
肩から今度は頭にぽすっ、と乗せられた手。それを私は手首を掴んで下ろす。
青年である従者は険しい顔で私達を見ており、祖母は躊躇うように口を開きかけて手を奥の建物の方向へ差し出す。
「……ここで話す事ではありませんので、どうぞ中へお上がり下さい。龍太郎、来客の持て成しを。そして、五条様とハルカが滞在時はお前がお世話をしなさい」
「はい、かしこまりました」
従者の龍太郎という青年はそう言って、頭を下げて建物の方へと急いで走っていく。
非日常も良い所だよ。敷地でっか…。どうしてこんな衝撃の記憶が私に残って居なかったんだろう。
──母はどうしてこんな大きな場所から離れてまで、一族から離れたかったんだろうか?
今では聞くことの出来ない、その母の思いを抱えながら私は祖母の後を着いていった。
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和室だ。我が家がフローリングである為にそれすらも新鮮で、座布団にもちょっとだけ感激してしまう。
旅行とかもしばらく行けてなかったし。友人と行った温泉施設はい草の匂いのしない、結構古めの場所だった。旅館も…和に触れる日常が無かったからこのい草の匂いも凄く久しぶりだ。
悟の隣に敷かれた座布団に座って、机を挟んだ祖母の話が始まる。祖母の少し後ろに、座布団も敷かずに座るのは従者の龍太郎だ。なんでこの家に居るのかは分からない、丁稚奉公とかかな…年齢は20代とみて、私とそんなに変わらなさそう。
「そのハルカへの術は私どもがやったわけではございません」
「だろうねぇ。どちらかっていうと血を途切れさせないようにじゃんじゃん教え込んでくでしょ?おばあちゃん」
なんか…変な感じ。軽い口調の悟の方がお偉いさん?らしい…。その界隈の有名人だとそこまで祖母に突っ込めるのかなぁ。
湯呑を両手で挟むようにして触れ、少し冷めるのを待ちながら祖母の話に耳を傾ける。