第36章 私達だけの世界
「ふふっ、寂しんぼだねえ~……、でもこの旅行みたいに時間があればいつまでも、満たされても続けちゃうよね?」
『……うん』
もう少しだけ、あと少しだけ……。満たす、の限界なんて無いほどに彼とくっついていれば現実がそんな事している場合か、と知らせる。
それは私専用のアラームだった。
携帯のアラームは悟が消してる。悟自身の携帯はこの旅行でアラームを設定することはないでしょうし。私のスマホでもない、鳴ったのは私のお腹というアラーム。しかも律儀にスヌーズ機能まで着いてるの。
ぐう、という音が私の耳に聴こえた……。抱きついて密着した体、お腹が鳴った瞬間は静かだったから悟にも確実に聴こえてる。見えない悟の顔はきっと笑ってる、体全体を小刻みに揺らし、小さく笑う声が漏れて聴こえるし……。
『……チッ!さいっあく…』
「クッ、クククッ…!ふ、ふははっ…!」
ぎゅっと抱き合いながらも笑う悟は「オマエのお腹の音に赤ちゃんも驚いちゃうんじゃない?」と言いながら私の背を擦ってる。
抱きつくのを止めて体を起こせば、面白いものを見たと言わんばかりに笑ってる悟。
……しょうがないじゃん!減るもんは減るんだよ、と頬を膨らませるしかない。恥ずかしくて顔が熱くて朝から変な汗も出てきたわ!
『超笑うじゃん。腹立つわ~…』
「ぷ、ふふ…っ、く…っ!そこは腹は立つんじゃなくて、空くの間違えでは?」
『うるせっ』
笑いのツボに入って涙を目尻に滲ませ、なかなか笑いが収まらない悟は、片目ずつ瞼を伏せて涙を指先で拭った後に体を起こす。布団の中で乱れた浴衣は気崩れていて、その状態で私も体を起こせば私もそれなりに着崩してて急いで直した。少し緩めな下着を付けてるとはいえ、いくらなんでもボロンッ、と胸を晒せないしね。素肌を下手に見せたら情事を思い出させて、悟から朝の運動しちゃおうか?って誘ってくるかもだし。
互いに寝起きの浴衣の姿で布団の上で座り、視線が合ってしばらくした後にばちん、とウインクをした彼は朝からその笑顔が眩しい。
「じゃ、ハルカもお腹が空いてるみたいだし。早くご飯食べてそれから今日出かける場所を決めよう!キミがお腹を空かせてるって事はお腹の子も催促してるんだろ?」
立ち上がりながら手を引く悟に「ハリアップ!」と急かされながら、私達は朝食を摂りに宴会場へと急いで向かった。
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