第34章 その男の名は……。
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窓である女将に直接旅館の部屋へと案内されて、「ごゆっくり」と僕達にふたりきりの時間が訪れた。荷物をほい、と畳に投げる僕、やりたいことはやったモン勝ちだよね~!
つーことで荷物整理を始めたハルカを呼んで部屋で座らせ、いそいそと僕はそのハルカの太ももに頭を乗せる。
ハルカの太ももを枕に畳の上で転がる僕。あれ、芸術じゃね?画家呼んで描いて貰う?これ、芸術ポイント高すぎだろ、サイゼの壁に貼ったら良いじゃん!
『悟、なにさっきからウフウフ言ってんの?キショイんだけど……疲れてるなら温泉入るなり仮眠すれば良いんじゃない?』
「キショイとか言わないでよ、幸せの音が漏れ出しちゃったの!」
『……アンパンマンラムネみたいな、なにかこう、世界が虹色に視えてしまいそうなお薬服用されてます?』
「僕、キメてない!」
今の僕は右耳を下にして膝枕を全力で楽しんでる状態。
天井側を向いても彼女の顔はきっと見えないと思うけど……横目に見えるその胸より先の顔はどんな表情をしてるんだろ。きっと蔑むお顔ってのは手に取るように分かるね!僕がどれだけの時間キミと居たと思ってるの。
しかしそんなウフウフ言ってたかなあ~…、でもこの今の状況は幸せだからウフウフとかグフグフとかURYYYYYYYとか言ってもしょうがなくない??仏頂面でふたりきりの時間を楽しむとかデューク東郷かよ。僕は堂々と表情に幸せを出していく方向性なんです~!
ハルカの膝が見える視界。首をぐい、と上が見えるようにすればハルカの顔が……、
「……。やっぱ見えねえなあ~……牛さんで僕のお嫁さんの顔が見えないんですけど~……」
『乳を牛呼ばわりすんな、誰がホルスタインじゃ』
「僕そこまで言ってないんだけどなー!」
チッ、と言いながら僕の頭を両手で大事に抱えてそっと降ろすキミ。後頭部に当たるのはハルカの柔らかくて暖かい太ももじゃなくてゴリ、と髪が当たった平たい畳。
僕から離れた場所に少しだけ足を崩して座ってるハルカを見て飛び起きた。手をのばすも彼女に届かず。
「僕のハルカ(枕)!」
『枕ってルビ振ってんじゃねえぞ?』