第32章 御三家
子供みたいな無邪気な悟は急に心配そうな顔してる。私の体調を気にしてくれてるんだ、それは嬉しいけれどさ?
ふう、とひとつため息を吐いて私はその袋の中を指差した。
『……今はいいです。あと酢だこさんは食べるなら換気してね、多分マーライオンする、リームー』
「そんな事されたら僕も貰いマーライオンして車内がシンガポールになっちゃうね?」
『シンガポールを穢すんじゃないよ?』
「言い出したのオマエっしょ?あっ、こっち向かないで!僕はハルカの事好きだけどそういう趣味はないからっ」
『出さんわ、朝食をリバースしたらとんでもないことになるもん。ちゃんと消化するように我慢する…』
ガサッと袋を抱えて私とは反対側のドア付近まで逃げてる悟。いや、今は吐かねえよ?
仰け反るような体勢を止めて普通に座る彼。袋をカーフックに掛けて「ハルカ」と私の名前を呼ぶ声色に彼のおふざけモードの終了を察して。
……なんの話だろ?
悟は微笑みながらじっとこちらを見ていて、なかなか本題に踏み切らないので『何?』とだけ返した。
「そろそろ本格的にマンションに住めるようにしていかないとねえ。
今月学年が切り替わるしね、学生服はもうクローゼット入りするか、そういうプレイをする時に着るかになるんだけどまあ、そのお楽しみは置いといてさ、」
……そういうプレイて。ツッコまないぞ、既に何度か制服を着てる状態でしてるし。
しかしまあ、学生時代を終え、社会人として過ごしてたのにまた学生服を身にまとう時が一年だけでもあったのは貴重な体験をした、と思う。彼にはとても良い経験の道を歩ませて貰えた。
呪術に関してはまだまだ学び足らないんだれど。これからは高専内に居る時に本を読んだり、悟から直に教わったり、任務中に体験して知らない呪いについての知識を学んでいくんだと思っているけどさ?
これまでとこれからに思いを馳せていると彼はにこ、と笑って続けた。
「生徒じゃなくなるって事は学校に囚われないって事。仕事はまあ、定時に帰って貰ってさー……ほら、七海だって残業はクソって言ってたじゃん?
これまで以上に僕だけのハルカになれば良いんだけど…」
『いや、悟自身が任務があるでしょ、特級呪術師は忙しいからこれまでとあまり変わらないんじゃあ無いのかな…?』