第21章 僕の初恋をキミに教えてあげる
冗談じゃなくやりそうなのがこの男。機嫌を損ねて膨らんだ頬を釣り上げたフグみたいに片手で押して空気を抜いていると。
"……待って、ハルカ"と言う母の言葉。なんだろう?と悟の頬をいじるのを止め、母の魂の言葉に耳を傾けていたら私の口を母は借りた。
『"悟君、忘却の術を掛けられているけれど、ハルカは使えないんじゃなかった?それとも私からの遺伝で使えるようになってたの?"…そんな呪術私知らないけれど。鎹と婆ちゃんは降ろしたけれどそんな術式は持っていなかったし…』
私の肩を掴んだままの悟。不思議そうに私をじーっと見つめている。
「……僕もそんな術式をハルカから感じられないけれど。掛けられたって前後の記憶も無いかなー…それって一体どういう事なのかな?」
『"彼はあなたに記憶を封じ込められているけど。ハルカに使えないのだとしたら、この髪降ろしで私を通して使ってるって事になるのかな?"だって……』
良くわからないけど既に使ってるって事なのかな?なにそれ。無意識って事なのか、とも考えられるけど術式さえも見える悟にはきっと使おうとする私も分かるはず。
私も知らない何か。悟自身も気が付かない何か。
目の前の彼も彼でちんぷんかんぷん、この室内で向き合ったままに両者(プラス母)が困惑し合ってる。
どうやら、悟には私も彼も中身を知らない、記憶のパンドラの箱があるという事が発覚した時だった。
じーっと悟は私の瞳を見つめている。私じゃない、私の中にいる母に向かって真剣に。
「忘却の術式について詳しく教えてくれない?」
自分の唇から出てくる言葉に耳を傾ける。大切な事だから。
母は自身の術についてを説明してくれる。
『"術式と血液で相手の記憶を一族以外が解呪出来ないようにすることが出来る。ハルカが呪いの継続した式髪だけでなく血に着目したように、私も利用してやろうって思ったわけでね、血を対象に取り込ませるのよ、それは口付ける事が一番効率が良くて……血液と呪力で脳に作用をさせてね。
封じ込めたい記憶を呪いながら、願いながら。普通に一族の術師が解呪出来ても半端な記憶が戻るだけ。完全な記憶を解放するには再び口付けて相手に取り込まれた血を回収するってワケ"』