第1章 魔法少女
『もぉ許さないわ!私があなたを倒してあげるんだから!』
日曜日の朝からやっている女児向けアニメがテレビから流れている。
少女はフリフリで動きにくそうな服を着て怪物を次々とマジカルプリティな魔法を用いて倒していく。
「せめて出る魔法も出てくる怪物もこんだけ可愛かったら苦労しないのになー…」
両親が出かけて誰もいない家のリビングで16歳の女子高生、安中(あんなか)スバルはパンをかじりながらアニメを見ていた。
『スバル!夢魔が出たみたいなのだ!早く行くのだ!』
そうして体長20センチほどのピンクの牛のようなファンシー生物がふよふよと浮きながらスバルに声をかけた。
「わかったよ。もう、魔法少女契約を5年なんて長さでするんじゃなかった。土日に友達と遊びに行けもしない」
そう言うと食べていたパンを口に詰め込み駆け足で外に出る。
『ウッシッシ。でもスバルはそう言いながら3年くらいちゃんと仕事してるのだ』
予想通りの笑い方をしながらふよふよとついてくる牛。
「……ふんっ」
行かなければいい話なのかもしれないが、何だかんだと行ってしまうのは性格だ。
家の玄関先の隅の方でスバルは1度深呼吸をして体を落ち着かせ、心の準備をする。いつものように。
「魔法少女スターズがスバル!マジカルチェーンジ!」
高校生には似合わないセボ○スターのようなチープなハートと星が付いているギラギラとしたブレスレットをしている腕を掛け声と共に天に向けると、それは光り始めてスバルの全身を包み込む。
お気づきだと思われるがスバルはこの街を守る魔法少女である。
中学の時に好奇心でまさかの5年契約を結び、「夢魔」と呼ばれる怪物の存在のことも魔法少女の事も周りの人にバレないように奮闘する毎日。
(あーあ、私もゆーちゃんと一緒にパンケーキ食べたかった…)
光から出てきたのは黒く長い髪をした少し胸が大きいだけの一般的な女子高生とかけ離れた、ピンクの髪をクソでかいリボンでまとめたツインテール、可愛らしいベレー帽、ふわっふわのミニスカートと白いニーソに可愛いブーツ。
ザ・魔法少女コスチュームに身を包んだいい年齢をした高校生、安中スバル。今日もコスプレがきついと思いながらのご出動だ。