第16章 農業生活十六日目
「遠慮しなくていいのに。」
いやいや、そんな残念そうな顔しないで。私もちゃんと遣りたいんだから。でも、ちょっとだけ目を閉じて唇を付き出せば・・・少し笑ってから、触れるだけのキス。
「ゴホンッ・・・あの~、今日の作業はここまでだ。」
私は恥ずかしくて、振り返れなかった。リヒトは何も変わることなく、お疲れ様でしたと言ってジルドを見送っていた。
私はしゃがみ込んで、両手で顔を覆いながら羞恥心に震えていた。
「やるんじゃなかった・・・。恥ずかしくて死んじゃう。」
「慣れるよ、直に。」
無理だよ・・・。
「さ、これで終わり。夕食の準備するよ、莉亜はどうする?部屋で休んでてもいいよ。それとも、一緒にキッチンに行く?」
「行く。」
ここで、即答の私。リヒトに手を引かれ、キッチンへと向かう。
「アスパラ湯搔いて、後は・・・豆腐ハンバーグにしようか。」
「うん。嬉しい。」
現金なものである。
今日も美味しいリヒトのご飯を食べて、一緒にお風呂に入って・・・。今日は、果実水。サッパリしていて、いつも美味しい。
「莉亜って、果物も好きだよね?」
「うん。リヒトは?イチオシの果物って何?」
「う~ん・・・葡萄かな。」
シャインマスカットとか似合いそう。葡萄の中でも、高価なもの。でも、この世界に葡萄って一括りなんだよね。美味しいからいいんだけど。
そして、何気にリヒトから聞かされたんだ。ゲームでは当たり前にあった、村のイベント。今更だけど、何も無かったなと思い出した。
「今週末に、花見のイベントがあるんだって。一緒に見に行こうね。綺麗だろうなぁ~、桜の中にいる莉亜。」
いや、桜見ようよ。それって、ある意味花より団子的な?
夏にはほたる祭り。秋は収穫祭。冬はクリスマス。そして、新年には社でお酒を飲むらしい。ゲームとは違って、簡素なものだった。
各季節は30日ごとで、120日で一年が終わる算段。現実より早く年が過ぎていく。
「リヒトの誕生日はいつ?」
「秋の8日。莉亜は冬の10日だったよね。」
何で、知っているんだろう?リヒトだから?きっと、リヒトだから。でも、お祭りは楽しみだ。
「僕がお弁当作るから、楽しみにしてて。」
「うん!!」
「それじゃ、そろそろ寝ようか。色んな意味で。」
えっ?
色んな意味でって・・・何?