第9章 農業生活九日目
何か、唇に触れる感触。目を開けたら、リヒトの顔があった。途中で開いた蜂蜜色の瞳と視線が合わさる。
「おはよう、莉亜。」
「おはよう。あの・・・起こしてくれたの?」
「キスしたかっただけだよ。」
絶句する私に、甘々なリヒトの瞳。どうせなら、そうだと言って欲しかった。リヒトは本当に油断ならない。でも、キスしかしない。
「今日は種蒔きだったよね?」
「うん。だから畑にいるから。」
「分かったよ。僕は店の下拵えさせて貰うから。」
ギュッと抱き締められ、頬擦り中。どうしてこうも懐かれたのか不思議だけど嬉しいものは嬉しい。だから、調子に乗ってしまったのかもしれない。
自分からリヒトにキスするなんて。で・・・後悔する羽目になったのだけど。えっと・・・リヒトの溺愛が激しい。でも、ごめんなさい・・・。私の規則正しい腹時計が。
「ごめん、ついガッツキ過ぎちゃった。直ぐにご飯にするよ。」
「あ、私も一緒に。」
リヒトは目を丸くして、嬉しそうな表情を浮かべた。でも、離してくれない。だけど、少しして名残惜しそうに腕を離した。
私がキッチンに行った時には、粗方の準備が終わっていた。流石、料理人。野菜サラダを盛り付けていると、リヒトの方は終わったらしい。
いつものようにテラスでモーニングだ。今日も心地よくて、爽やかな朝だ。それに、ご飯も美味しい。パンもご飯も好きだけど、今朝は雑穀米に焼き魚と豆腐とお揚げと若芽のお味噌汁。ピクルスも付いていた。
食事の後、元気の補充と言いながらリヒトに抱き着いておく。そして、元気いっぱいに行って来ますと言って家を・・・家を出られなかった。
「くれぐれも、僕のこと忘れないで?分かった?忘れたら・・・お仕置きだから。」
コクコクと頷くと、ホッペにキスされて送り出された。ちょっとだけHP削られた感あるけれど、仕切り直しだ。倉庫で種を籠に入れて、畑へと向かった。
鍬で畑を耕す。只管、鍬を振り上げ下ろす。単純作業を繰り返し、蒔きに蒔いた種。圧巻の畝が並んでいる。大満足である。いい汗かいた~。
さてと、家の裏にある小屋へと・・・行く前に、キッチンに顔を出した。リヒトがボウルに何かを混ぜ和せている。うわぁ~っ、カッコイイ。熱い眼差しで見てしまったのか、途中で肩を震わせるリヒト。
「どうしたの?そんなに僕を見詰めて。」