第77章 一つずつ、年を重ねて
蒼と付き合って、初めて二人だけで年を越した。参拝客でごった返した境内を抜け、蒼とはぐれない様に彼の手を強く握り返す。
やっとの思いで人込みから抜け出せば、灯りが並ぶ出店へと足を運んだ。二人で出店を覗いたりしながら、神社通りから家へと向かう。
「今年から、もっと忙しくなるんだよね?」
「うん、あ~寂しいなぁ。」
眉を八の字にした蒼が、そんな事を言う。でも、私も同じ気持ちだ。
「頑張ってね?」
「勿論だよ。」
蒼は私の為に医者をを目指したと言った。だったら、寂しくとも応援しなきゃ罰があたる。
「そう言えば・・・おじさんたちって、卒業して直ぐに結婚したんだったよね?」
「うん、そう聞いてる。パパが駄々こねたって言ってた。」
「おじさんって、昔からおばさん大好きだったよね。今でも仲いいし。僕も憧れるなぁ。」
それを間近で見て来た私だって、尚更憧れている。パパはいつだって、ママが一番。
「理玖もその血を受け継いでいるから、彼女一筋だよね。あんなにモテるのに。」
理玖の彼女は、聞いた通りの優しくて温かい人だった。美人というよりは、可愛らしい人だ。
「この前、大変だったんでしょ?」
「クラスでのクリスマスパーティーのこと?」
「そう。理玖が不参加だって事で、騒動になったって聞いたよ。人気者は辛いね。」
「本人はケロッとしてたけどね。」
私も同じだけど、理玖も相当マイペースだ。そして、彼女を殊の外大事にしている。周りからのやっかみはかなりだったけれど、いつだって理玖は彼女を守って来た。
「蒼だって、本当に良かったの?」
蒼もクラスでのパーティーに誘われていたらしい。不参加を速攻で決めたらしいのだけど。
「僕には莉緖以外で大切なものは無いから。」
「なっ!!?」
「好きな人と過ごしたい。それが悪い理由にはならないよ。遣るべきことはやっているし、それならご褒美だって欲しいと思うから。」
蒼だって、理玖に負けないくらい優しい。そう長くない時間でも、顔だけでも見せに来てくれるし声も聞かせてくれる。
また一つ、年をこうして蒼と越すなんて想像もしていなかったけれど、今は私の心は蒼に向いている。優しくて何処までも私に甘い恋人。