第75章 春十七日
「・・・緖!莉緖っ!!!」
誰かの私の名を呼ぶ声で目覚めた。視界に入って来たのは、アオイではなくゲームの世界でもなかった現実の私の部屋。どうやら、部屋で倒れていたらしく焦った声と表情のその人は久しぶりに会う昔馴染みだった。
「・・・蒼?」
「良かった、目覚めて。返事が無いから勝手に入ったのは悪かったけど、心臓に悪かった・・・。」
そう言えば、以前もこういうことがあった。幼かった私は、病弱でよく体調を崩していた。その度に、双子の兄や馴染みである蒼に心配を掛けて来た。
「私・・・どうしてたの?」
「僕が部屋に入った時には、倒れていたんだ。体調が悪いなら、早めに言う様に言ってただろう?」
体調は悪くなかった。きっと、ゲームの世界に入っていたから、こんな状況になっていたのだと思う。でも、そんな事を話しても信じてくれる訳はないだろう。
「ゲームの世界に行ってた?」
それは、私の頭の中を見透かす様な言葉だった。
「どうしてそれを?って言うか、そんなこと・・・。」
「信じられるのかって?勿論、信じるよ。昔から、莉緖が願っていたことだし。」
ママにゲームの事を聞いてから、私はすっかりその話しの虜になっていた。昔馴染みである蒼には、何度も話した内容だ。でも、信じてくれていたなんて思ってもみなかった。
蒼とは、二年前から疎遠になった。理由は、蒼の三歳年下の妹からかなり激しい嫉妬を浴びせられていたから。極度のブラコンだった妹から、手酷い虐めを受け辛くなって疎遠にしたのだ。
蒼は幼い頃からモテたし、同性からも人望があった。優しくていつも穏やかな人だった。そんな蒼に執着した実の妹。特に蒼とは仲が良かった私は、恰好の餌食になったんだ。
「どうして、ここに?」
「戦おうと思って。」
「えっ?戦う?」
「やっぱり、莉緖が好きでどうしても忘れられなかったから。だから、戦う事に決めたんだ。」
真剣な眼差しで私を見詰める蒼。
「妹の加耶(かや)の事は、本当にごめん。でも、ある事を耳にして・・・我慢するのを止める事にしたんだ。」
「どういうこと?」
「加耶が、理玖(りく)に告白したって聞いたんだ。」
理玖は、私の双子の兄のこと。勿論、私に対する仕打ちを一番身近で見て来た存在だ。そんな理玖に告白?