第74章 春十六日
アオイの機械の様な声が続く。
「どう思った?二人で僕を蔑んで。気分良かったか?」
「そんなこと・・・。」
「否定はさせない。あの時、二人で僕を見て嘲笑ったんだから。恋人には戻れないなら友達になれ?どこまで僕を馬鹿にすれば気が済むのやら。あ、でも、一つだけ感謝してる。」
この時になって、アオイの声質が変わった。
「今の僕の恋人と出会う切っ掛けをくれた事だけは、感謝してもいい。可愛くて愛おしくて、ささくれた僕の心を癒してくれる愛して止まない唯一無二の恋人だ。」
「わ、私のこと好きだって言ってくれたじゃない。」
「その結果がアレなんて、笑えないけど。まぁ、もう終わった事だからどうでもいい。今の僕には、君のことなんて至極どうでもいいし興味ない。」
「嘘よ。今も私のこと忘れられないんでしょ?」
「ある意味はそうかも。でも、憎しみも怒りも今の僕にはどうでもいい。今が穏やかで幸せで、愛おしい人が愛してくれている事実があるから。あの時間(過去)以上に、僕は恋人を慈しむし愛していく。今なら言える。良かったよ、君が浮気してくれて。・・・莉緖、そこにいるんでしょ?」
私は体が跳ねた。でも、私はアオイの前に姿を現わせた。
「好きだよ、大好きだ莉緖。」
「うん、私もアオイが好き。」
美人がアオイの前に立ちはだかった。
「私を捨てるの?」
「うん、要らない。」
キッパリとした言葉に、美人は激高し私に向かって来た。それを遮ってくれたのは、アサドだった。
「最後まで失望させてやるなよ。仮にも、元は恋人同士だったんだろ?それに、お前が先に手離した事を忘れるな。この村を出禁にするから、二度と来るなよ。」
私の横を擦り抜け、アサドは美人を伴い外へと出て行った。
アオイは私を抱き締めた。泣いている様だった。そんなアオイを私は、抱き締め返すしか出来なかった。
その夜、私たちは抱き合い眠った。