第73章 春十五日
目覚めると、アオイの顔が傍にあった。
「おはよう、アオイ。」
「おはよう、莉緖。体調はどう?」
「体調?う~ん、たくさん寝たから大丈夫。」
「それなら良かった。昨日は本当にごめん。」
アオイが傍にいれば、私が急に辛いことを思い出しても・・・ううん、思い出すこともそうはない気がする。ある意味、アオイのお陰?
ションボリしているアオイに、自ら勇気を出してキスする。最初は驚いていたアオイも、素直に応じてくれる。朝からイチャイチャしていると、玄関から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
この村の住人は、皆が早起きだ。
「イチャイチャしていたいって言ったら、アオイはどうする?」
「そんなのイチャイチャするに決まってる。」
即答だ。それも、居留守を使う選択。まぁ、そんなことはしないけど。
「冗談だよ。あの声はジェイクさんみたいだから行こう?」
「仕方ないか。先に行っているから。」
ん?あれ?アオイの半裸はまぁ・・・通常運転。
「な、な、何で全裸なのっ!!?」
「あぁ、気付いたら脱いでた。大丈夫、もう落ち着いているから。じゃ、ゆっくりおいで。」
颯爽と衣服を身に纏い、部屋から出て行ったアオイ。
「ねぇ、大丈夫って何?」
一体、どういう意味なのだろう?そんなことを思いながら、身支度をしては玄関へと出て行った。
そこには、想像通りのジェイクとアオイ。そして、昨日走り去った女の子がいた。何故か、アオイに纏わりついている。全くもって不愉快である。
そんなアオイは私に気付くと、私をハグし額にキスをくれる。あ、怖い。これは嫉妬の目だ。嫉妬の目を向けているのは、走り去った女の子。
「わ、私の方が可愛いと思います。私と付き合ってくれませんか?」
これには、誰もが驚いた。アオイですら、目を丸くしている。でも、アオイの吐いた声は、酷く冷たかった。
「君は・・・随分、自意識過剰で他人を嬉々とした顔で貶める人なんだな。」
女の子の顔が真っ赤になった。ジェイクは、何故か顔色を青くしている。
「残念だけど、僕は莉緖を愛している。そうでなくとも、君の様な人格の女性は遠慮する。生憎、僕の目は節穴じゃない。二度と会いたくないけど、病人としてならいつでもどうぞ。」
最後は、いい笑顔のアオイ。ここまでイヤミを言ってからの、この笑顔。ジェイクの顔色の意味が理解出来た気がする。