第69章 春十一日
話し合いの後、正式に書面を交わして提携することになった。今更ながら、その日その日の作物を調理していたマホさんたちは凄い腕前だったのだろう。
そして今・・・目を輝かせてアサドとミランがウチの畑の作物を収穫している。アサドもミランも作物に言葉を投げかけ、愛おしそうに撫でている。大事にしてくれるのは嬉しい。でも、ちょっとだけ気持ち悪い。
何種類かの作物を収穫した後、さっきの茶葉もしっかり持って帰った二人。
「アオイ、ありがとうね。私だけじゃ、上手く纏まらなかったと思うから。」
「いいんだよ、それくらい。でも、大切にしてくれる人で良かったね。」
「うん。じゃあ、種蒔きしなきゃ。」
軽い気持ちで高品質の種と肥料を蒔いた。そう、軽い気持ち・・・。あ、ちょっと言葉に語弊がある。美味しく育ってねと心は込めたし、大きくなぁれとも願ったよ。
三日に一回くらいの頻度で採取に来るそうなので、その都度対応していこうと思う。
「それで、どこに行こうとしているのかな?」
「養蜂場だよ。そろそろかなって。」
こういう時、ゲームの世界なのだなと思う。来ましたよ、養蜂場。養蜂箱の下にトレイを敷いているのだけど、それに蜂蜜の固形が落ちている。それを収穫するだけだ。
一欠摘まんでは、口の中に放り込んだ。目を丸くした私を見たアオイが、私の手を掴みその指先を咥えた。ザラッとした舌の感触。
「ア、アオイっ!?」
「んっ、これは美味しいな。」
通常運転のアオイである。更に、唇まで奪われてしまった。
「こ、こ、ここは外なのにっ!!」
「だって、唇が蜂蜜で光っているのを見たら、凄く美味しそうに見えたから・・・ごめんね?」
謝罪しているけど、全然悪いと思っていない。そして、私はというと・・・今回も丸め込まれてしまうんだ。
「蜂蜜も出荷する?」
「うん。宿屋の方にね。」
やはり、優先順位は付けたい。そして、アサドたちと提携した事も知らせておこう。勿論、優先順位のことも提携した内容のことも。
明日にでも早速、宿屋を訪ねようと決意しその日を終えることとなった。そして、揉め事は違ったところから起きる事を今の私は知らない。