第68章 春十日
アオイが甘い。もう、私自身が何言っているか分かっていない。でも、この日からたくさんアオイからキスされる様になった。それは額だったり頬だったり唇だったり。
全力で愛しいのだと知らせてくれるのだと実感させられるんだ。だから私も、少しずつだけどお返しする。
あんな事があったからこそ、今の幸福をより一層感じられる。
(もっと深く愛してあげる・・・)
それはどんなに甘美で優しい声色だったか。ずっと、頭の奥で痺れて忘れない出来事。
二人で作物を採取し、二人で料理をしては二人でいる時間が楽しいと二人で笑い合った。
作物は私の心の安寧に比例してか、元気に育ってくれた。宿屋を切り盛りするマホさんにも感謝され、繁盛しているらしい。
そろそろ、作物を加工しては出荷価格を上げたいところ。ママからもレクチャーされた燻製機に材料を放り込んでは開始。
果物もワイン機に入れては、スイッチオン。楽しい・・・もっと早くやっておけば良かった。
嬉々として働く私を、微笑ましそうに見詰めているアオイ。そんなアオイの視線に気付き、微笑み返す。
でも・・・そこで、思い出す。
恋敵の存在だ。ママも大変だったと言っていた。パパはママにしか興味なかったらしいけれど・・・アオイは?塩対応まではしなくとも、あまり優しくし過ぎないで欲しいと思うのが女心だ。
でも、アオイは村のお医者様だ。塩対応なんてありえないし、誰にでも優しくするだろう。優しく・・・。
「莉緖・・・。」
顎を掴まれ顔を上げられては、重ねられた唇。
「僕は莉緖のものだよ。」
「えっ?」
「だから、所有権主張していいから。」
そんなに甘やかせられたら、私・・・。
「ほら、僕に続いて言って?アオイは・・・。」
「アオイは・・・。」
「私のもの。ほら、言って。」
「わ、私のもの。」
よく出来ましたと言わんばかりに、あちこちにキスされる私。何故に、そんなにご満悦な顔をアオイはしているのだろう?
「僕の心の安らぎの為にも、それを忘れないで?」
アオイは私に所有権を主張される事で、安らぎを感じるのだろうか?少しくらいなら・・・主張しても構わないのだろうか?
「そうやって、僕の事で莉緖の頭の中がいっぱいになれば嬉しい。」
物凄いいい笑顔でそんな事を言う。本当に私には甘いんだから。