第68章 春十日
心地よい朝日の中、目覚めた私。やはり、上半身裸のアオイに腕枕をされた状態で起きたのだけど、きっと寂しくて私から擦り寄った結果が今のこの状態なのだろう。
「おはよう、莉緖。」
「おはよう、アオイ。ごめんね、窮屈じゃなかった?」
「そんなことないよ。」
アオイは優しい。そして、今日も腹筋が美しい。この部分でも、やはりママの娘だと再認識してしまう。ママが大好きなパパの腹筋も凄いから。
二人で朝食を食べていると、外から人の声が聞こえた。顔を出してみれば、ジェイクとオレンジ色の髪の女性がいた。
「本当にごめんなさいっ!!!」
膝に額が付く程に頭を下げた女性。この人が窓ガラスを割った張本人なのだろう。
「頭を上げてください。謝罪は受け取ります。同情の余地がありますしね。」
「ありがとうございます。ちゃんと綺麗にします。弁償もします。」
「俺が見ているから安心してくれ、アオイ先生。」
ジェイクさんが監視してくれるらしい。それなら安心だ。
ここまで追いかけて来たものの、ジェイクさんから説明されどうやら冷静になったらしい。セトに弄ばれていなければ、こんな暴挙を遣る様な人ではないのだろう。
「セトの事も聞きました。これ以上被害者が出ない様にしてくれて、本当に良かったと思います。」
吹っ切れた顔をしては、ジェイクさんと病院へと向かった。
「心の傷が早く癒えるといいね。」
「それは、莉緖にも言えることだよ。だから、僕が傍にいることを忘れないで?」
「うん、ありがとう。」
いつ、どんなタイミングで辛い思いを思い出すかは私も分からない。でも、その時はアオイが居てくれる。
「全力で頼って構わないから。それが、僕の心の癒しにもなるだろうから。」
そっか、アオイも心に傷があるんだ。五年も付き合って来て、セトに靡いた元カノの存在は決して小さくはない。
「今だから分かるけど・・・セトの事で追及されてなかったとしても、復縁は無かっただろうなって。思ったより僕は、器が大きくないみたいだ。」
「それは違う。アオイの器が小さいなんて私は思わない。そんな卑下しなくていい。私には何の力もないけれど、頑張ってアオイを幸せにする。」
あ・・・この言葉も、ママがパパに言った言葉?そっか・・・やっぱり私ってママに似てる。