第63章 春五日
「家でノルドの姿が見えなかったから、ひょっとしてと思ってここに来たんだ。」
「えっ?」
それって、またのぞき?
「誰かと勘違いして、想像して一人で致してたところにシアンさんに見つかったと言う事だ。」
「はいっ!?」
「俺の入浴を覗いてた。初めてだったが、男の俺でも気持ちのいいものじゃないな。」
「アオイ・・・覗かれたの?」
あれ?何か、ノルドが思いっきり凹んでる?
「今回は見逃しますけど、次は相手が俺でも警察に付き出しますから。いいですね?」
シアンは頭を下げ、ノルドを引きずって連れて帰った。
「風呂の窓を少し開けてたら、人の顔が見えて驚いた。」
「えっ?見られたってこと?」
「髪色で直ぐ誰か分かったし、俺は男だから別に堂々としてたがな。」
見せつけたってこと?逆に?
「まさか、男におかずにされるとは思わなかった。」
「おかず?」
「あ、何でもない。それより、勝手に行き先言わずに出て悪かったな。」
そう言えば、どこにもアオイの姿がなくて怖くなってたんだった。今になって思い出した。
「うん。」
「俺としては不謹慎だとは思うが、莉緖から抱き付いて来てくれたのは嬉しかったけどな。」
今になって、人前で行動したことに恥ずかしくなった。
「ほら、中に入れ。春とはいえ、夜は湯冷めする。」
アオイに手を引かれ、寝室へと戻った。
「ねぇ、もう来ないと思う?」
「肯定したいのは山々なんだが。たぶん、また来るだろうな。ほんと、莉緖が好きなんだなぁ。でも・・・俺が見張るから心配しなくていい。」
「うん。」
「ほら、そんな不安そうな顔をするな。俺がいるだろう?」
私の頭を撫でる大きな手。
「でも・・・。」
「でも?」
「来たら来たで、ある意味・・・。あんな貧相なので、逆に気の毒・・・あ、何でもない。」
どういう意味か聞いたけれど、最後までアオイははぐらかして答えてはくれなかった。一体、何が貧相なんだろう?