第62章 春四日
言われた通りに差し出せば、私の手を取り指に嵌められたリング。デザインはアオイと同じものだ。勿論、アオイの指にも嵌っている。
「えっ?左手?」
「虫除け用。本物はそう遠くない内に用意するから、今はそれで我慢して。恋人同士だけど、別に左手の薬指に指輪を嵌めるのがダメな訳ではないだろ?」
「う、うん。あ、ありがとう。」
虫除け用に貰った指輪は、思いの外、いい仕事をしたらしくアオイが不機嫌になることは減った。
最後に向かった先は、村の広場にある桜並木道。カップルたちが桜の花を見上げていた。そして、日が傾き辺りが薄暗くなって来た頃、あちこちでムードが高まったらしくイチャつくカップルたち。
自分たちの世界に入っているのか、周りの状況を気にすることなく甘い空気を醸し出している。
「そろそろ帰るか。」
「えっ?」
「まだ、見たいのか?」
「あ、ううん。」
アオイに手を引かれ、広場から家へと向かった。
「アオイ?」
「あんな場所でしない。」
「えっ?」
「莉緖の可愛い顔は、俺だけが知っていればいいし。余計な虫を引き寄せたくないから。」
そっか、ヤキモチ妬いてくれてたんだ。私とキスしたくなかった訳じゃないんだ。あれ?私、何かホッとしてる?
「また、デートしような?」
「うん。今日は楽しかった。ありがとう。」
「どういたしまして。」
アオイの表情も柔らかいから、同じ様に楽しいと思ってくれたんだよね?
その夜、アオイ特製のオムライスを作ってくれて、入浴後は只管イチャイチャと眠るまで甘やかされた。
寝る間際、傷が付こうが指輪は嵌めたままにと言われたので否定することはしなかった。
だって、女性の観光客がアオイのことを見ていたのを知っているもの。私だって、虫除けとして付けてて欲しいって思うもの。
そして、今晩もアオイの腕枕なんだけど・・・どうして、朝には体勢が変わっているんだろう?ちょっと不思議。