第60章 春の二日
バッチリ見られてた。でも、彼は付き合っていた人がいたんだし、特に何も思わないかも?だって、そういう事してただろうし。いい大人だもんね。
ヨロヨロと湯船から出ては体の水分を取る。ドアを開けると、目の前に彼が待ってくれていた。
「幾ら刷りガラスで中は見えないとはいえ、気持ちのいいものではないよな。大丈夫か?」
「うん。」
「あ、ホラ、髪を乾かさないと風邪をひくぞ。こっちに来い。」
手を引かれて、二階へと上がる。鏡の前で座れば、彼が髪を乾かせてくれた。
「明日、アイツを脅して来るから心配するな。」
「えっ?脅す?」
「あぁ、そうだ。しっかり余計な真似をしない様に釘を刺して来る。だから大丈夫だ。」
「ありがとう。」
兄みたい。いつも私を守ってくれた存在。
「もし、俺が見てしまったことに不満を思うのなら、俺が入っている時に見に来ればいい。俺は全然構わないから。」
「それで、平等とか思ってる?」
「思う訳ないだろ。女と男では違うだろう?他に何かして欲しい事とかあるなら言えばいい。」
私が見たいって言ったら、本当に見せてくれるのだろうか?いや、言わないけど。
「あ、今見るか?」
「だ、大丈夫!!そんなに見せたいの?」
「いや、そういう趣味はない。」
きっと、こういうところも真剣なんだろうな。
「では、そろそろ寝よう。一緒でもいいか?」
「うん。一人は怖い。」
「そうか。なら、頭持って来い。」
腕枕をしてくれて私は彼に擦り寄った。
「もし、どうしても不安になったり怖くなったら俺に言え。いいな?」
「うん、ありがとう。」
「我慢だけはするな。」
本当にどこまでも優しい。だから、私も怖い思いをせずに安心して寝られたんだと思う。
兄とは違う異性。少し緊張はするけど、上手く言えないけど一緒にいるのは心地いいって思ってしまっている。
「莉緖?」
「うん?」
「おやすみのキス。」
彼は少しこういうところは乙女みたいだ。触れるだけの唇へのキスと額に触れる唇の後、私たちは目を閉じた。