第56章 お正月
「冗談だよ。莉亜といられるだけで十分我慢できるよ。」
我慢なんだ・・・。まぁ、いいや。我慢でも。
その後、地元の友人たちのネットワークが大変なことになっていたらしい。でも、誰も本人に確認しては来なかった。
二人は言ったらしい。
「恐ろしいくらい美形のイケメンだ。魂を抜かれるよ。」
友人たちよ・・・恐ろしいくらいの美形は兎も角、魂は抜かれることはないよ?陽キャじゃない友人たちは、勇気がある人がいなかったのが良かったのかもしれない。
その夜。流石に、実家で一緒にお風呂に入ることはなかったけれど、今、お風呂上りの私の髪を理人が乾かしてくれている。
そして、そこでノックして声を掛けてきたのは悟だった。何故か、写真を撮らせて欲しいと言う。何に使うつもりだ?
理人は快諾はしなかったものの、条件として私とのツーショットならと了承していた。えっ?何故?
私を腕の中に抱き締め、慌てている私を他所に撮影OKの声をかける。あ・・・撮られた。いいのか?弟よ・・・姉とのツーショットで。
あ、いいんだな・・・。理人に撮った写真を送り、直ぐに部屋を出て行った。私、何も出来なかった。
「莉亜、写真見る?」
見せてくれたのは、理人の視線だけがカメラに向けられたもの。そして私は・・・こんな顔してたんだ。理人に慣れて来た証拠?居心地いいもん、理人の腕の中。
理人は満足そうに微笑んで、その写真を見ていた。その微笑みにつられて、私も笑みを浮かべていた。
「莉亜・・・。」
「あ・・・んっ。」
咄嗟にキスされた時、シャッターを切る音。
「ん、いい写真。待ち受けにしようかな。」
「み、見せて!!」
「いいよ。俺たちのキスシーン。」
バッチリ綺麗に撮れていた。
「待ち受けとかダメだからね?」
「冗談だよ。悟から貰った写真を待ち受けにする。」
弟をもう呼び捨てだ。会って初日で、仲良くなったものだと思う。
「ねぇ、莉亜。」
「うん?」
「絶対に、莉亜を幸せにする。だから、俺のこと飽きたり諦めたりしないで欲しい。ずっと、俺を莉亜の傍にいさせて欲しい。それが・・・今日、俺が参拝で願ったことだよ。」
私と同じようなことを願っていたんだ。結局、私の願いも聞き出されてしまったのだけど。
「来て良かった。好きだよ、莉亜。」
甘く優しい声が、私を包み込んだ。