第55章 クリスマス
今日はクリスマス・イヴ当日。朝から理人に連れられて向かった先は、理人が利用しているお店だ。店員が理人に気付くと、直ぐに何かを持って来た。
間に合ったとか聞こえた気がするけれど、私はスルー。男性主体のちょっと見た目がゴツイ宝飾の店だ。
店を出て移動した目的地は水族館。その駐車場にて、理人からお揃いのリングを嵌めてくれた。貰って直ぐ、この前の話しがこれだったのだと気付いた。
あのお店には通常はない、少し華奢な作りの指輪だ。典型的なデザインではなくオリジナルで小さな宝石がたくさん付いている。
左手人差し指にお互いに嵌め合って、水族館へと入った。クリスマスということで、イベントをやっている。いつもよりカラフルな装飾が施されていた。
でも、私はというと・・・貰ったお揃いの指輪に心を奪われていた。お互いの名前が内側に刻まれている。それに、デザインがシンプルながらも上品だ。
「気に入ってくれたのかな?」
「えっ?あ、うん。凄く嬉しい。」
「どういたしまして。」
理人の機嫌もいい。クリスマスというイベントがそうさせたのか、私は浮かれていた感は否めない。回りの来場客は、カップルも多い。人はそこそこ多いけれど、それぞれが自分たちの世界だ。
影に隠れ切れていないけれど、キスしたり熱い抱擁をしているカップルがあちこちにみられる。そして、浮かれている私はそれを見てちょっと羨ましく思っていた。
いつもの理人なら・・・と思うのだけど、どういう訳か何もしようとしてこない。ん?これじゃあ、何か私が欲求不満みたいだ。
「どうかしたの?」
「ううん。何でもない。」
「そう。」
いつになく、サッパリした理人だ。チラチラと理人の顔を見ても、綺麗な笑顔を見せてくれるだけだ。いや、綺麗な笑顔はそれはそれでいいものなんだけど・・・。
回りの女の子たちも、その笑顔に心を奪われているようだ。カッコイイから仕方ないんだけど。
それでも、何も起こらないまま水族館を出て来て・・・私は理人を引き留めた。
「理人。」
「ん?」
今も、綺麗に微笑む理人の顔。
「・・・キスして欲しい。」
「やっと、言った。」
どうやら、気付かれていたらしい。
「最近、俺ってガツガツしてたから、たまには莉亜のペースに合わせようかなって。」
「・・・もう、したくないのかと思った。」
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