第54章 理人のお仕置き
暑かった季節も彩りを帯びた季節になり、やがて、人肌が恋しい季節となった。去年の私は、どうこの寒い季節を過ごしていただろう?上手く思い出せない。
あまり寒さを感じないのは、絶えず傍に理人がいるからだと思う。学校では、時折、友人と教室から出て行ったりするものの、それ以外で理人が傍にいないと言うことがない。
休日だったり、学校でのランチ時間だったり友人たちと出掛け同じ時間を過ごす事はある。勿論、理人が隣りにいるのだけど。
そして、この日も同じく理人が友人たちと教室から出た休み時間のこと。友達になった女の子たちと、トイレから教室に戻っていた。そこに声を掛けて来たのは一人の女の子だ。
友達には先に教室に戻って貰い、私は初対面の女の子と話す為に人気のない場所へと移動した。そして、そこにいたのはこれまた見知らぬ男子学生。
違う学部の人だと思われる。一般的に真面目そうに見える雰囲気の人だ。理人ほどではないものの背が高く、一般的に美形の容姿をしている。
「ごめんね、突然。君と話したくて、知り合いに呼びだして貰ったんだ。」
振り返った時には、私に声を掛けてきた女の子の姿は無かった。辺りを見回したけれど姿が見当たらない。仕方なく、視線を戻すと意外にも直ぐ傍で私の顔を覗き込むかのような仕草をしていた。
驚いて、後退れば人のいい笑みを浮かべる男子学生。
「ねぇ、聞いていい?」
「えっ?何を?」
「どうやって、あの三浦を意のままにしてるの?君って大して美人でもないし、特別可愛くもないのにどうやったの?何か凄いテクニック持ってるとか?」
あどけない表情にも関わず、言葉は辛辣だ。
「あれ?俺の簡単な質問に答えられないくらい、頭も悪いの?」
何故、初対面の人にここまで言われなければならないのだろう?第一、そんなこと言われなくとも分かっている。
「ま、いいか。あの三浦が大事にしている女なんだから、何かしら使い道あるんだろうし。ねぇ、俺に乗り換えなよ。」
ここまで人を馬鹿にしておいて、そこで肯定する返事を得られるとでも思っているのだろうか?
「えっと・・・誰ですか?」
初めて発した私の言葉に、驚愕した顔を浮かべた男子学生。
「いやいや、えっ?ひょっとして・・・それも作戦?幾らウチの大学の学生が多いからって、俺を知らないとかありえないでしょ。」
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