第6章 農業生活六日目 (R指定)
今日は朝早くから、ケビンが慌てた様子で訪ねてきた。二人でサンドイッチを食べている朝食の時間。馬車を降りて、駆け寄って来た。
「リヒト大変だ!!店の材料を積んだ荷馬車が、昨日の雨でぬかるみにハマって立ち往生しているらしい。」
宅配している人たちが何とか手伝ってくれているらしいが、ビクともしない様だ。馬で動かないなら、人なんてもっと無理だろう。それに、ここから2時間も先の場所とのことだ。
「そうですか。積み荷はダメかもしれませんね。届いたら、下拵えやりたかったのですけど。」
「ウチから回せるのは、今なら乳製品くらいしかねぇけど使うか?」
「ありがとうございます。一先ず、お願いします。野菜は莉亜に頼むとして・・・さて、どうしようかな。」
考え込んでいるリヒト。材料が無ければ、どうしようもない。それに、乳製品と野菜だけではメインが無理だろう。
「ウチにあるものなら、使って貰ってもいいですよ?だって、数日分でいいのですよね?リヒトさんさえ良かったらですけど・・・。」
二人が私を見た。思わずビクッとなる。
「ありがとう、莉亜。これは商売だから、ちゃんと支払いはする。だから、頼めるかな?」
「いいですよ。」
「後は・・・お酒か。」
お酒?お酒って、ワインでもいいのかな?ワインしかないけど。確か試飲用のミニボトルのお酒があったはず。まさか、こんな時に使うことになるとは思ってもみなかったけれど。
作業場にあるワインセラーから、ミニボトルを数本手にして戻る。二人は真剣な顔で、何やら話し込んでいた。その二人の間に、グラスとボトルを差し出した。
「えっ、これは・・・ワイン?」
「あ、それは莉亜のとこの果実酒。すっげぇ美味いんだよな。」
ケビンって、ウチの大得意様だったの?
「赤と白ワイン・オレンジ・桃だけど、飲んでみてください。」
「莉亜、ワインまで作ってるの?でも、ワインって・・・。」
ケビンは遠慮なくボトルを開けて、グラスに注いでいた。本当に甘党だな、この人は。
「いいから、飲んでみろ。病みつきになるぞ。」
それで、身を滅ぼさない様にね?
「いただきます。」
匂いを嗅いで口に含んだリヒト。そして、直ぐに飲み干してしまった。何やら、頭を抱え込んでいる。ダメだったのだろうか?そんなリヒトに、次のワインを渡すケビン。遠慮なしだな。