第5章 農業生活五日目
予想通りの雨だった。しとしとと降る、少し肌寒い朝。いつものシャツの上に、キャメル色のカーディガンを羽織っていリヒト。この色を着こなすのは、難しいと思うけど似合っている。
「おはようございます。」
「おはよう。今朝は少し冷えるね。」
キッチンで隣りに並ぶと、ホカホカの温野菜とコンソメスープが並んでいた。今朝はホッとサンド。トマト、チーズ、粗く刻んだ卵の具材。寒い朝には有難いメニュー。
食事の間も、外はしとしとと雨が降り続いていた。でも、その中でも田畑や温室の確認は外せない。傘を差しては、見回った。植えたばかりの田んぼも問題ないみたいだ。
そして、温室。この中は一定温度で暖かい。その中で、香料用の花やハーブを籠に摘んでいく。すると、後からリヒトが現れた。
「ここに居たんだ。花?」
「香料を作るんですよ。使う分をいつも補充するくらいですけど。今日は洗剤作りの時に使うので。」
「へぇ~っ、だからいつも莉亜はいい香りがするんだ。」
「そ、そんなこと・・・。」
近い、近いよ・・・。たまに、油断も隙もないんだから。
「僕に近付かれるの・・・嫌?」
「えっ?そ、そういう訳じゃ・・・。」
「自分からは平気に近付いてくるのに、僕から近付くのは緊張してるよね。嫌なら嫌だと言って構わないから。」
私は驚いた顔をして、リヒトを見上げた。私・・・傷付けてた?
「し、仕方ないじゃないですか・・・。リヒトさん・・・カッコイイし、カッコイイから・・・カッコイイんです。」
私・・・何言ってんだろう?カッコイイしか言ってない。何もない時は何も思わないけど、ちょっと色気出されるとどうしても緊張してしまう。
あれ?リヒト・・・顔が赤い?
「僕だって・・・いっぱいいっぱいなんだ。僕にも付き合った人はいたけど・・・でも、上手く立ち回れないなんて初めてで。その・・・ごめん。カッコイイって言ってくれてるのに、全然そんな風に出来ないんだよ。」
「リヒトさんは、いつもカッコイイです。だから、ちょっと色気出されると緊張しちゃうんです。」
「えっ、色気?」
ん?ひょっとして、今まで無自覚だったの?だって、仕方ないじゃない・・・その蜂蜜色の瞳だけで、十分色気標準装備なのだから。
「僕の事、嫌ってない?」
「嫌う人がいたら見てみたいですよ。」
リヒトは、苦笑いをした。