第35章 農業生活 夏 二日目
それに気付いたリヒトが、微笑ましそうに口元を緩めている。気付いたのなら、何か言ってあげればいいのにと思わなくもない。そして、次々とパンケーキが焼かれて出ていく。
それに比例して、カミルの機嫌が変化していく。面白いように・・・。以前の、ワインの時の事を思い出した。ただ、それでも自分から要求しないところは流石と言うか・・・全然、隠せていないけど。
最後の来客が終わる頃には、枇杷味のメレンゲは完売していた。流石のリヒトも、少し苦笑いしている。
三人で夕食を食べ、最後にリヒトはパンケーキをカミルに振舞ってあげていた。メレンゲはメロン味。あ、少しだけカミルの目元が緩んだ気がする。そして、黙々と食べている。一心不乱と言うか、我武者羅と言うか・・・。
「カミル、メレンゲの味はどう?」
「もう思い残すことはありません。」
嫌々、まるで最後の晩餐的な話しになってない?重いから!!
「あ、あの・・・俺・・・実を言うと・・・その・・・甘党なんです。」
知ってる!!とは言わないでおこう。
「そうなんだ。僕は甘党じゃないけれど、甘党じゃない僕ですら虜にするんだから、甘党のカミルには最高のご馳走かもしれないね。」
それとなく、カミングアウトをスルーしつつも肯定してあげたリヒト。カミルは甘党だと言えたことと、肯定されたことにホッとした顔をしていた。可愛いなぁ、カミル。
食事後カミルを見送り、入浴後、部屋でベッドに寝転がった。地味に疲れた気がする。
「莉亜、今日はありがとう。」
「う・・・ん・・・。」
リヒトの声が、何となく遠くで聞こえる。
「莉亜、眠いの?」
「んっ・・・ちょ・・・ねむ・・・。」
増々、リヒトの声が遠くなる。
「え、僕・・・莉亜が欲しいんだけど。」
「ん・・・いい・・・よ。あげ・・・る。」
「言質は取ったからね?」
怪しく笑うリヒトの言葉に、私の意識は完全に飛んだ。
「じゃあ、遠慮なく・・・莉亜を食べさせて貰うね。」
夢の中でも、リヒトに食べられる甘い時間。どうやら、今日のリヒトはお預けが出来なかったらしい。
さて、夜はまだこれから・・・。唇に甘いキスを落とし、リヒトにとっての充電と言う名の、ひとときを・・・。