第26章 農業生活二十五日目 前編
朝起きると、隣りに眠ったままのリヒトがいた。その寝姿すらイケメン過ぎて、血を吐きそうになるほどだ。そっと、頬に触れてみれば、少しだけ目が開く。
まだ、焦点が定まらないその瞳がとても綺麗で・・・私は吸い込まれるように、その瞳を見詰めていた。何かを探しているかのように、視線を彷徨わせていたけれど、その瞳が私を認識すれば蕩けるような微笑みを浮かべた。
今度の私は、砂糖を吐いた。何これっ!!早起きすると、こんなリヒトの表情を見られるなんて。早起きは三文の徳だとはよく言ったものだ。いや、三文どころじゃない。って、浮かれすぎた。
「おはよう、莉亜。」
「おはよう、リヒト。」
「どうしたの?そんなに僕を見詰めて。」
どうもしていない。イケメン観賞していただけだ。イケメンは三日で飽きるって聞いたことがあるけれど、リヒトの顔面偏差値は雲を突き抜けていると思う。
「フフ・・・好きなだけ、見てていいよ。」
目を細めて微笑むリヒトに、体毎近付けられる。吐息が掛かるほどの至近距離。ヤバい・・・と、思った時は既に遅かった。
「これで、もっとよく見えるでしょ。」
私の顔は、条件反射の如く、真っ赤に染まっていく。しっかりとホールドされた体は、縫い付けられたかのように身動きなど取れない。
「このまま・・・しちゃう?」
「み、魅力的なお誘いだけど・・・。」
「あ~、残念。でも、仕方ないか。今日はケビンさんも来る日だし、僕たちが愛し合っているところなんて見せたくないから、今は諦めるよ。」
今は、って言った。今は、って。
これ以上のやり取りは危険だと思い、早々に支度をしては朝食の準備を一緒にする。コーラルに対する嫌がらせではと思う様な、葉野菜のサラダを作っていると、リヒトが小さく笑っていた。仕方ないじゃない、食べたくなったんだから。
そして、リヒトの方もサンドイッチにたくさんの野菜が使われていた。でも、これも生産者の特権だよね。テラスで食事をしていると、ケビンが配達に来た。
「ここは、変わらず優雅だな。あぁ、そうだった。卵のことなんだけど。飼料が手に入りにくくなって、卵の収穫が減りつつあるんだ。」
そうか、農作物が減れば、それを加工して使うところにも弊害が出て来る。ウチは農業だから、飼料用の機材はない。