第24章 農業生活二十四日目 前編
温室の中の一角。桜と変わらない花を付け、実の方も幾つも生っている。せっせと収穫し、機材に入れれば普段のアーモンドが出て来る。アーモンドチョコ好きな私としては、欠かせない案件だ。
ホクホク顔で温室を出れば、直ぐ傍にローランがいた。その事に驚くと、私の方へ近づいてきた。ちょっと、身構えてしまう私。
「あ、その・・・莉亜に迷惑かけてすまない。」
「えっ、迷惑?」
「今、農家が大変だって言ってる時に、俺に板チョコ分けてくれたんだよな。」
ローランの手には、二枚の板チョコがあった。あれ?シノンさんには、一枚ずつだって言ったはずなのに。
「あまりにもアイツが弱くて、消化不良になっちまって・・・つい、それでイライラして。リヒトにも怒られそうだな。」
「シノンさんも心配してましたよ。だから、シノンさんと半分ずつにしたらどうですか?優しいお姉さんですね。」
「あ、あぁ、まぁ。昔から迷惑ばっかり掛けて来た。つい、甘えちまうんだよな。それでも、遣り過ぎたら痛い目に合わされるんだけど。」
そ、そう・・・痛い目に。
「分かった、有難く貰っとく。姉さんと半分ずつにする。何かあったら、俺を頼ってくれ。」
「大丈夫ですよ。莉亜には、僕が付いていますから。さっさと、それを持って帰って下さい。」
「リヒト・・・相変わらず、容赦ない一言だな。まぁいい。じゃあ、またな。」
爽やかに去って行ったローラン。
「ねぇ・・・二枚とも渡したのはワザと?」
「フフ、シノンさんはそういう人なんだよ。今でも可愛い弟なんだろうね。たまに、物理的に痛い目に合わされているけど。それより、ご飯だよ。お昼からは出掛けるんだよね。」
「宿屋・・・行って見ようかな。」
どれだけの災害なのか、知っておいた方がいい気がする。同じ村に住む住人同士だもの。
「優しいね、莉亜は。それなら、コーラルを訪ねた方がいいかも。ほら、役場の仕事をしているから、色々と知ってると思うよ。」
「分かった。リヒトも一緒に来てくれるよね?」
「勿論だよ。男の元に一人で行かせる訳ないでしょ。」
・・・そう。うん、そうだね。笑顔なのに、何となく背後に黒いものを見える気がする。そして、それが気のせいじゃないと思う。
「ほら、ご飯だよ。」
籠を取り手を握り、私を連れて行く通常運転のリヒトだった。