第22章 農業生活二十二日目
分かってた。そう、分かってたんだけど、努力はした。したんだけど、砕かれた腰はなかなか動かなかった。リヒトはいないし、ついでにいい匂いが漂ってくる。
昨晩はあんなにガッツリ私も食べたのに、もうお腹が減っている気がする。新婚真っ青の夜の様な営みだった。
何とかベッドから這いずり出して、シャワーを浴びる。腰を温めると少しだけ楽になった気がする。気のせいかもしれないけれど。髪を乾かしていると、リヒトが現れた。
「あぁ、起きられたんだね。どう?体調の方は。」
「リヒト・・・ちゃんと寝た?」
「勿論だよ。いい疲れだったから、ぐっすりとね。今朝はいい目覚めだったよ。」
全てに充実していますと言う様な、顔をしている。それに、いい疲れって・・・過剰だった気がするんだけど。
「莉亜、こっち向いて。キスしたい。」
バックハグからの、キス要請。朝から触れるだけのものではなく濃厚だったけれど、つい私も乗せられてしまう。
「フフ、今朝は乗り気だね。嬉しいなぁ。」
「リヒト、お腹減った。」
「用意出来てるよ。歩ける?何なら、僕が抱いて行こうか?」
両手を差し出せば、笑顔で私を抱き上げてくれた。リヒトの首に抱き付き、自分から顔を寄せる。リヒトの蜂蜜色の瞳が、今日も綺麗だ。
作業場に連れて行って貰い、二人で仲良く朝食。少しして、ケビンが配達にやって来た。何故か、レントが一緒にいる。宿屋で住み込みで働く人だ。
「莉亜、レントが頼みがあるそうなんだ。聞いてやってくれ。」
「私にですか?何ですか?」
栗色の短髪に、ブルーの瞳。客商売をしているからか、愛想もいい。リヒトをチラッと見たら、何の反応もなかった。
「野菜を分けて下さい。お願いしますっ!!」
いきなり体を90度に曲げて、お願いしてきたレント。
「あ、頭を上げて下さい。それで、野菜って?」
「ちょっと力入れたら、ラディッシュを木っ端微塵に潰してしまいました。女将さんに莉亜さんのところに行って頼んで来いって言われて、お願いに参りました。」
宿屋の女将さんは、大のラディッュ好きだったはず。大層、お怒りになったのではなかろうか。それにしても、握りつぶしたのかな?
「莉亜、僕が案内するよ。」
「あ、うん。」
ついでと、ケビンの荷下ろしを手伝ってくれ、笑顔でラディッシュを持って帰って行った。