第1章 はじまり
「お疲れ。今どのくらい?」
後ろから聞こえた声に驚いて振り返る。
「え?黒尾さん?なんで?今日直帰でしたよね?」
「遅くなってごめんな。会食が長引いた。後どのくらい?」
「えーっと。もうすぐ終わると思います」
とりあえず確実に "もうすぐ" は終わんないけど。
でも正直に言うと、たぶん黒尾さんは手伝ってくれる。
「とりあえず送って。
あと、はいこれ。もしお腹空いてたら食べて。
ちゃんと食べてたら無理して食べる必要はないから」
渡されたコンビニの袋には、サンドウィッチと野菜ジュースと、さっきなくなったチョコレート。
とりあえず、さっき保存したファイルを添付して黒尾さんにメールする。
「今、送りました。あの、お腹空いてたので、いただいてもいいですか?」
「そのために買ってきたから。どうぞ召し上がれ」
「ありがとうございます。いただきます」
手を合わせてサンドウィッチを食べる。
ほんっとにお腹が空いてんだなと改めて実感するほど、サンドウィッチが染みた。
だけど。
今私の資料をチェックしてるであろう黒尾さんを横目で見る。
とりあえず、さっき「もうすぐ」って言ったけど、もうすぐには終わらないことが、もうすぐバレる。