第13章 12月(夜)
何も反撃ができない。
悔しい。
「佐藤は俺のこと、名前で呼んでくれないの?」
「………いつの日か」
「その日ちゃんとくる?」
「どうでしょうか………?」
「えーーーーー」
たぶん来ないと思います。
とは流石に言えずに飲み込んだ。
そして今普通に聞き流したけど
黒尾さんからも今まで通り、ずっと苗字で呼ばれるのでいいな
なんて思ってしまう。
緊張しなくて済む。
「くくくっ。ねぇ、こっち向いて?」
黒尾さんの横で体育館座りで膝を抱えている私に向かって
相変わらず黒尾さんは笑いながらそう言ってくる。
ほんと、黒尾さんだけ余裕なんて、不公平だ。
「(名前)チャン?」
………くっっ!
"ちゃん" 呼びの破壊力も底知れない………!
私はこれから
このまま黒尾さんとお付き合いできるのか?なんて
急に不安になる。
とりあえず、チラッと見てみる。
「………黒尾さんって、セットしてないと雰囲気違うんですね」
「あー。アレ、セットって言うよりほぼ寝癖(笑)」
「え、寝癖なんですか?」
「ウン。明日の朝起きたらだいたいいつもの髪型になってると思うよ(笑)」
「………衝撃です」
「そうー?(笑)奈々ちゃんは、いつものオレと今のオレ、どっちがいい?」
「………いつもの黒尾さんもいいですけど、今の黒尾さん」
「なんで?」
だって。
「だって、会社のみんなは知らないから」
「…………っっ」
今度は黒尾さんが頭を抱える。
おっ?これはこれは?
そんなつもりはなかったんだけど。
「ちょっとキュンってしました?」
「もーーーー。そういうこと聞くんデスか?」
「はい」
真顔で返事。
だって、知りたいんだもん。
「めちゃくちゃしました」
「ズキュン?」