第12章 12月(晩酌)
「たまーに、です。疲れた時とか、嫌なことがあった時とか。
あとめちゃくちゃ頑張った日とか!
逆に、今日は飲むぞーーー!って日にしか飲まないので、ちょっと特別っていうか」
「へぇ。なんかいいネ」
「ものすごく棒読みですね」
「いやいや。今日から俺もこの音好きになりました」
いや、ほんとに。
そんなこと思ったこともなかったし。
「はい。じゃあ。今週もお疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
缶と缶がぶつかる、すこし鈍い音。
ゴクゴクと喉を流れていく発泡酒に
さっき水は飲んだはずなのに、喉が乾いていたのか~って気づく。
「黒尾さん、今日あんまり飲んでないんですか?」
「んー?クライアントの忘年会ではね、そんなに飲まないようにしてる。粗相しないように」
「黒尾さんが粗相することあるんですか?」
「あるよー?だから気をつけるんデス」
「へぇ~。意外です。黒尾さんってなんでも完璧だから」
………。
ヤバい。なんかそんなことを言われて嬉しい。
佐藤の前ではそうでありたい、なんて思ったりしながら
今日まで過ごしてきた。
口元が緩みそうになるのを必死で抑える。
「そう?そうだといいけど、全然そんなことないよ。
佐藤は?お酒での失敗ある?」
「社会人になってからは~ないですかね?」
「てことは学生の頃は?」
「あーーー。黙秘で」
「俺以外の前じゃ、やめて下さいネ?」
佐藤がお酒で失敗すること事態、想像ができないけど。
でも。ほんとーに。
「大丈夫だと、思います?」
「なんで悩むの」
「保険として。念のため」
「マジでやめて下サイ」
「はーい」
そう返事をしながら、くすくす笑ってる。