第7章 海へ
黒尾さんが運転する車は、空っぽの駐車場に静かに止まった。
「………どうする?」
「………あ」
「外、寒そうだけど。降りる?」
「……はい」
涙はずっと前に止まっていたけど、上手く声が出せなかった。
黒尾さんがエンジンを切って車を降りると、少し離れた駐車場でも、かすかに波の音が聞こえた。
「運転、ありがとうございました」
「俺、運転するの好きだから」
そう言って優しく笑う黒尾さんに、また泣きそうになった。
「やっぱり12月はさみーな。大丈夫?」
持ってきたストールをグルグルと巻いて。
「大丈夫です。黒尾さんこそ、寒くないですか?」
「俺は大丈夫。あ、カイロがわりに飲み物買おう」
駐車場の隅にある自販機に向かう後をついていく。
「何がいい?」
「あ、じゃあミルクティで……」
「りょーかい」
買ってもらったミルクティを両手に包んで、海に向かう黒尾さんの後をついていく。
「どうする?歩く?座る?」
「少し、歩きたいです」
「うん」
ただ黙って
私の横で私に合わせて歩いてくれる。
手の中のミルクティが温かくて。
波の音に感情を揺さぶられて。
また涙が溢れそうなのを我慢して。
ただ、歩いた。