第76章 満月
式場での打ち合わせの帰り道の車内
もうすぐお家
黒尾さんとおしゃべりしてたら
ビルの隙間から、突然大きな月が現れた。
「え?!」
それがあまりにも明く大きくて
最初、月だってわからなかった。
「どうした?」
話してたのに私が突然叫ぶから
黒尾さんも驚いてる。
「いや、今見ました?!」
「何を?」
「月がものすごく大きかったの!」
見えたのは一瞬
今はビルに隠れているのか。
「いや?どの辺?」
「正面でした!でも、一瞬でした。
駐車場からは見えるかな?」
マンションの手前の角を曲がって
駐車場に入るけど
「んーーーー。見えませんね。
部屋から見れるかな?」
あまりにも大きくて
だけどあまりにも一瞬で
もう一度見たい。
エレベーターで上がって鍵を開けて
そのまま東の窓から外を見るけど。
「たぶん、あのマンションの後ろです」
「そっかー。残念だな」
……………。
「もう一回見たいので
さっき見えたところまで、ちょっと行ってきます!」
「は?!」
車の中だったから外していたストールをぐるぐると巻いて
「すぐ戻ってきまーす!」
「いやいやいや。
ちょっと待って?!俺も行く!」
「そうですね!黒尾さんにも見てほしいです!」
ちょっと待ってと言いながら
黒尾さんもマフラーをグルグルと巻く。
マンションを出て
今度は歩いて
来た道を戻る。
「ここを曲がった
ちょっと先だったんですよね~」
「ねぇちょっと。
お嬢さん、危ないですよ?」
早く見たいな~って
後ろ歩きをしたら怒られた。