第74章 海で.2(黒尾)
「泣ァくなって!
結婚式、挙げような?」
「………はい」
ポロポロと溢れる奈々の涙が
さっきよりも高く昇った太陽の光をキラキラと映す。
それをそっと掬い上げる。
「でも、髪が伸びてからがいいなら。
そうしよう、な?」
「…………くろおさん」
「んーーーー?」
「これからも、よろしくお願いします」
「ウン。こちらこそ」
今は短い奈々の髪を
ゆっくりと撫でる。
「あと、髪を切った理由。
もうひとつあります」
「なに?」
「前に、黒尾さんが。
髪が長い方がいいって言ってたから」
「え?」
確かに奈々の綺麗な長い髪のこと
いいなって思っていたけど、
そんなことを言ったのか。
「だから、黒尾さんと一緒にいれないなら
もう長くいる必要ないなって思って。
だけど、また伸ばそうと思うので
伸ばして、いいですか?」
「うん。もちろん」
さぁ、どうする?
愛おしさしか込み上げてこない。
「あ、くろおさん」
「ハイハイ」
「この後、婚約破棄とか。
やめてくださいね?(笑)」
「こっちもお願いしますよ?」
お互いの冗談に顔を見合わせて笑って
「だいぶ日も昇ってきたなァ。
一回戻るか?」
「そうしましょう」
「戻ったらキスしていい?」
「………考えときます(笑)」
「えーーーーーー(笑)」
なぁ奈々?
ありがとう。
俺の隣にいてくれて、
俺の言葉を覚えていてくれて。
俺の言葉に、涙を流してくれて。
ありがとう。
なぁ、奈々?
これからも
どうぞ、よろしく。