第70章 翌々日(日曜日のお別れ)
一静さんのこと
好きとか、そういうんじゃないって思ってた。
だけど、もう会えないんだと思うと
どうしようもなく寂しかった。
だけど、身体の関係を持ってしまった私たち。
毎回そうだったわけじゃない。
ご飯だけ食べて
お酒だけ飲んで
ただ話して
ただ、それだけで帰る日もあった。
だけどもう、会っちゃいけないと思う。
だけど、やっぱり
「あの、私」
「うん」
「今日、話したいことがあったんです」
「………うん」
一静さんの表情は、優しい
「だけど、言わなきゃいけないんですけど」
「うん」
「言いたく……………
ない、です」
ずっと相槌を打っていてくれていたのに
私のわがままのような
よくわからないこの言葉には、何も返してくれなくて。
だけど、表情は
やっぱり、優しい。
「奈々ちゃん、俺たち今日で会うのやめようか」
「え」
一静さんの言葉に動揺する。
いや、それを言わなきゃいけなかったんだけど。
だけど、なんか。
思わず下を向く。
「今日はこれ、言いにきたんでしょ?」
思いがけない言葉に
たった今下を向いた顔勢いよく上げて
目が、合う
やっぱり、優しい表情
「………なん、で?」
「奈々ちゃん、今幸せ?」
全てを見透かされているような質問
「………はい」
「うん。よかった」
「………一静さん」
「ん?」
「………ありがとう、ございました」
「お礼を言うのは俺の方。
奈々ちゃんと一緒にいた時間、
すごく、楽しかったよ。
ありがとう」
泣くな、泣くな、泣くな
唇を噛み締める。
「一静さん」
「ん?」
「今、幸せですか?」
あなたは?
「んーーー。どうかな」
相変わらず優しく笑ってる。
だけど、私が知らない
たぶん一静さんがずっと抱えている寂しさが
滲み出ている。