第63章 過去(黒尾)
結局その日、終電前に様子を見に行って
俺も残ると伝えたけど。
「明日の飛行機のために
黒尾さんは荷物を取りに帰らなければいけないでしょ?」
さっきとは違って、穏やかな口調
だけどやっぱり、目を合わせようとはせず
目の前のパソコンから離れない、
奈々の視線。
そして "荷物を取りに帰らないと" と言われると
明日戻るという判断を、どうしても覆すことができない俺は
やっぱり何も、言えなかった。
そして、その後出てきた言葉は
「ゴメンな。奈々も気を付けろよ。
…………帰る時は連絡して」
最後まで俺の方を見ようとしなかった。
だけど、終電に乗るためにその場を離れる自分は
今までで一番嫌いだと思った。