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【ハイキュー】思い出すのは、いつも【黒尾鉄朗】

第63章 過去(黒尾)


「……………なんか来てもらってすみませんでした。

仕事戻ります。失礼します」





冷たい音として淡々と奈々からこぼれた言葉に


ヤバいと思った。





「待てって!」





とにかく今の俺たちに足りていないことは、たぶん



お互いの気持ちを話し合うこと。





連絡は取っていた。



だけど何も、知らなかった。



なぜかわかっているつもりになっていた。



だけど何も、

わかっていなかった。





思わず奈々の右腕を、強く掴む。





だけど





「…………離してください」





奈々から溢れる言葉は、やっぱり熱がなくて。




でも、それでも





「その前に、ちゃんと話そう」



「…………早く戻ってマニュアル読まないと。

明日の朝までに、間に合わなくなっちゃいます」





やっぱり目を合わせようとしない。




だけど


今奈々が言ったことは、嘘じゃない。





そして



俺はそれをどうしてやることもできない。





咄嗟に奈々の右腕を掴んだ俺の右手は




何もしてやれない。





自分の無力さに虚しくなって




強く、離さないと思った



その力はどんどん弱くなって、





だらんと



力の入ってないその手は重力に従う。





出て行こうとする奈々を引き止めたくても




今の俺には、


それができない。





「………帰り、気をつけてください」





今日、最後の挨拶にならないように





「………終わるまで、一緒に残ってるから」



「それだと飛行機間に合いませんよ?」





…………。





「…………また、後で連絡する」



「大丈夫です。この1ヶ月、ずっと一人だったんで。

じゃ、ありがとうございました」





"ずっと一人だった"





その言葉が、

ズシンと重くのし掛かる。





「本当に、ごめんな…………」





出てきた言葉は、奈々に対する謝罪の言葉だったけど




ただ、小さく漏れたその声はたぶん


ドアの閉まる音にかき消されて





奈々には、届かないまま消えていった。
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