第63章 過去(黒尾)
だけど、俺が泣いてもしょうがない。
会議室の鍵を開けて
ドアが閉まると同時に、奈々のことを抱きしめた。
できることならば代わってやりたい。
だけど
今、奈々がどんな仕事をしているのか
俺は詳細を知らない。
今までは上司という立場から
奈々の仕事は把握していた。
だけど、もう違う。
わからない。
しょうがないことなんだけど、
奈々に対して何もしてあげられない自分が
本当に腹立たしかった。
ただただ泣く奈々を
まともになだめることすらできなかった。
だけど、少しずつ落ち着いてきたようで
さっきまでは話すこともままならなかったけど
ポツリ、ポツリと
奈々からこぼれる小さな声に
多少なりともホッとする。
ただ、奈々の今の状況を聞くと
課長は何やってんだ?と。
あの人の評判は良くないけど、
ここまでとは。
彼女とかそういうことを置いても
今の奈々の状況には、元上司として憤りを感じる。
だから、部長のところへ行こうと言った。
本当に、代われるもんなら代わってやりたい。
だけど、できないから。
せめて、俺にできることを。
と思ったけど
そんなことできないと言う奈々に
また、どうしていいかわからなくなった。
そして、明日来てほしいと言われて
「…………ごめん。明日福岡戻らなきゃいけなくなって。
………始発で、帰る」
こんな状態の奈々を置いて戻れるのか?
だけど、戻らなきゃいけない。
いや、どうにかならないのか?
戻らなくていい方法は?
………………。
そして、俺が出した結論は
「マジでごめん」