第57章 4月下旬(おにぎり宮)
「そんな、真顔で言わないでください。
けど、奥様はそれを受けられたってことですよね?」
「そうですね。かなり時間がかかりましたけどね」
なにかを思い出すように
少し苦く、だけど懐かしむように笑う赤葦さんを
そして奥様を
羨ましいなって思った。
「赤葦さん。奥様のこと、好きですか?」
「はい。大好きです」
こっちまで幸せになるような、
愛おしむようなその表情
「もしかすると、大変なこともあられたかもしれませんが。
だけど今、奥様幸せなんだろうな~って。
奥様に会ったことはないですけど。なんか、そんな風に思いました」
「そうだといいですね」
普段から優しい雰囲気の赤葦さんだけど
それをさらに、何重にも膨らませたような。
…………………。
「いいな~。羨ましいな」
赤葦さんに対してではなく
無意識にこぼれたその言葉。
その言葉は
気づかないふりをしていた、本心だった。