第54章 12月.2(松川)
アルコールどころか
まだ乾杯するお店へ向かう道中
こんなことを、このタイミングで話してしまう自分に衝撃
だけど、この人はそういうことも受け入れてくれるって
なんの根拠もないけど、
なんか、なんでも受け止めてくれそうな
そういう雰囲気。
それに、いつ
"今日が最後" という日が来てもおかしくない関係だから
人間関係で面倒な
"遠慮" を取っ払って接させていただいております。
ごめんなさい。
一応、心の中でそっと謝っておく。
「なるほどね~。
けど俺も久しぶりだからなぁ。
だから奈々ちゃんの気持ち、わかるよ」
「そう言ってくれる気がしてました」
「ははっ。
傷心者同士、美味しいもの食べましょうか。
あ、今日飲める?」
「はい。大丈夫です」
「よかった。じゃあ美味しいお酒も飲みましょう」
「賛成です」
駅を抜けて表に出る
一気に冷たい空気に包まれて、
思わず肩をすくめる。
そして
「………あれ?」
「ん?」
駅構内では気づかなかったんだけど。
まわりから人がいなくなった今
「一静さん。この前と香水、違います?」
「ん~?どうだろう?」
「………今日ってどこの香水ですか?」
「〇〇ってブランドなんだけど。知ってる?」
知ってる?と聞かれたら、
よく知っています。
というのが正しい答えだろう。
黒尾さんと
同じ、香り。
「名前だけは」
「この香り、嫌いだった?」
ちょっと申し訳なさそうな顔。
好き?嫌い?
……………どっちも。
大好きだった香り
なんなら自分も、同じ香りに纏われていた。
だけど、今は
黒尾さんのことを思い出してしまう。
胸をギュッと
締め付けられた日々を
思い出してしまう香り。