第46章 9月2日
香水は、
黒尾さんが私以外の肩を抱いていたその日から
引き出しの奥に仕舞った。
だけど、ルームフレグランスはそのままだった。
別に、黒尾さん関係なく気に入ってるし。
別れるからって、
気に入っているものまで処分する必要なんてないよね?
この1ヶ月、呪文のように唱えたセリフ。
だけど、本当はそうじゃない。
実はあれは黒尾さんじゃなかったんじゃない?
万が一、そうだとしても、
何かの間違えなんじゃない?
だって黒尾さんだよ?
黒尾さんがそんなことするはずなくない?
私が別れたいなんて言っても、
別れないって言われるんじゃない?
だって、黒尾さんだもん。
これが本音。
万が一、いや億が一?
ううん。それ以上。
私の「別れましょう」の言葉に対して、
それを黒尾さんが受け入れるなんて
そのくらいないと思ってた。
だけどその、すごく小さな可能性のために
自分が出来るだけ傷つかないように、
ここでもいくつもの言い訳を並べて。
なのに、ほとんどないと思っていたことが現実で。
でも、よく考えてみたら?
7月後半
黒尾さん、帰ってきてること
一度も教えてくれなかった。
………よく考えたらわかることじゃん。