第34章 週末、最終便で(お風呂)
今までずっと何も言わずにいた黒尾さんが
こうやって、話してくれたんだけど。
………結局、何も言えない。
「………ごめんなさい」
「情けないな~って、幻滅した?」
後ろにいる黒尾さんの表情は見えないけど
声が出せなくて、首だけ横に振る。
「泣ーくなって」
我慢して、堪えようとするんだけど。
私が泣いてどーするんだ。
「………ごめんなさい。
わかってたけど、結局私
何もできないし、
黒尾さんがそんなに大変な思いしてたのも、全然気づかなくて」
自分の鈍感さに腹が立つ。
そして結局、何もできない、何も言えない、
無力な自分を思い知らされただけだった。
「そんなことねーよ?
俺が必死に隠そうとしてたし。
それがちゃんとできてたってことだろ?
だからそこは安心してるし。
なによりお前がいてくれるから、頑張れてるし。
今日もこうやって会いに来てくれて。
そしてこうやって俺のこと考えてくれて。
ほんとーに
感謝してる。
だーかーらっ!泣ーくなって!
な?」
「…………うっ」
泣き止まなきゃって思うのに、涙が止まらない。
「……じゃあ問題です。
クロオさんは、泣いてる奈々と笑ってる奈々、
どっちが好きでしょーか?」
「………泣いてない私……」
「アッレ〜?答え変わっちゃってますけど?
"泣いてない" じゃなくて
"笑ってる奈々" がいいんですけどぉ~?」
黒尾さんの大きな手で、涙を拭われる。
「じゃ、俺からお願いがあるんだけど」
「………なんですか?」
私にできることなら、なんだってしたい。
「こんなさ、情けない俺だけど。
これからも隣にいてくれる?」
「………黒尾さんも、案外忘れっぽいんですね」
「え?」
「私から離れていくことないって、
前に言ったの忘れちゃったんですか?」
こんなに大好きな人。
「んーん。ちゃーんと覚えてマス」
私から、離れられるわけない。