第31章 二人の週末
黒尾さんと初めて二人で食事に行った日
あの日はまだそんなつもりはなくて、
仕事着で化粧もロクになおさずに行ってしまって。
私たちのきっかけになったし
アレはアレとして、まぁ。
って感じだけど
せっかくお洒落したし、デートとしても行ってみたかった。
「はーい。あ、ちなみに新しい人どう?」
黒尾さんの代わりに異動してきた新しい上司。
「穏やかそうな方でした」
「よかったな」
「はい。でも黒尾さんの方がいいですけど」
黒尾さんがいてくれたらな~って毎日思う。
「それも定期的に言って~」
「了解です。…………あ」
「ん?」
「いや。黒尾さんへのお願い、思い出しました」
私にしては、珍しく。
「おーーー。で?何だったの?」
「あ、それは帰ってから言います」
「なんで?」
「ここじゃちょっと」
「いや、めちゃくちゃ気になるし」
公共の場で言うことじゃないんだけど。
「ほんとに聞きます?」
「ウン」
「ちょっと」
こちらへ。
って、黒尾さんの耳元に手を近づけて
「………キスマーク、消えちゃったんで。
たくさんつけてほしいな~って」
「は?!……………………ん"ん"っっっ」
その後に誰に向かうわけでもないけど
スミマセン。って。
「黒尾さん、電車ですよ?静かにしないと」
「イヤ、お前は。なんてことを」
「だから言ったじゃないですか~。
家で言います。と、ここじゃちょっと。って」
「…………はぁ」
黒尾さんの左手が、私の右手に重なる。
「ゴメン。飯食いに行くの明日でもいい?」
「なんでですか?」
「今日はこのまま帰りませんか?」
「えーーーー?」
せっかくオシャレしてきたのに。
「………ねぇ、俺のこと
からかってません?」
からかってるかどうかと聞かれると、
黒尾さんの反応をみて、面白がってはいる。