第20章 会社にて
「ちょっと、黒尾さん」
「ん~?」
「………会社じゃ名前、呼ばないでください」
まわりには誰もいないけど、
なんとなく小さな声で。
「誰もいないからいいじゃん。
今日何時に上がれそう?」
「んーーー。20時前とかですかね?」
本当はもっと早く帰りたいけど
ヘルプはヘルプとしての役割をこなさなければいけない。
「今日軽く飯食って帰らない?」
「行きたいです!」
突然のお誘いに、口元が緩む。
「じゃあ決まり。
あーあ。学生ならこのままサボるのにな?」
仕事じゃ見せないその表情を会社で見てしまうと
本当にサボりたくなってしまう。
このままずっと、黒尾さんと一緒にいたいなぁ。
………でも
「大人って大変ですね?」
でも大人だから、我慢。
「ほんとにな~。
はーあっ!20時までに仕事片付けれるように、そろそろ戻りますか?」
「そうですね。仕事終わらせてきます」
「何かあったら連絡して」
「わかりました。何事もないことを祈ります。
じゃ、お疲れ様です」
まだ中身が残っていたミルクティはそのまま手に持って
会釈して、黒尾さんとは反対方向へ。
さーて。残りも頑張ろう。