第1章 転校生は・・・オンナ
「どうだ、まだ頭は痛むか?」
『はい、あんまり変わらない・・・かな。』
痛みのある後頭部から首にかけてを家入さんが何度か撫でるが、痛みがひく気配は感じられなかった。
もともと術式を使うと、その反動で頭が痛くなることは常々あった。廃墟ビルで祓った呪霊は今まで見たソレとは比べ物にならないくらいに大きくて、術式を発動したあとから脈打つように頭が痛く、意識を手放してしまうまではあっという間だった。
「すまないな。私の術式で治せるのは、どうも怪我だけみたいでね。」
と家入さんは私の右頬を指さし、意識を手放す直前右頬に切れるような痛みを感じたことを思い出す。そう言われてみれば、先に自分の頬を触れたとき痛みはおろか、傷があるようにも感じられなかった。
「顔に傷なんて、女子には死活問題だろう?」
ニヤりといたずらっ子のように笑う彼女が、本当に教室で会ったタバコを吸う家入さんなのかと再び疑った。私がそんなことを考えている間も、彼女は熱を測ったり、血圧を測ったりとひっきりなしに作業を続ける。
『あの、家入さんって医者とか看護師なんですか?』
「結論から言えばどちらも違うかな。ま、将来的には医者になるつもりでいるけど。あと硝子でいいよ。」
みんなそう呼ぶしね、と付け足したのとほぼ同時にまたもやガラガラと大きな音をたてて戸が開く。ガヤガヤと騒がしくなるのが目に見えたのか、彼女は大きくて深いため息をひとつ吐いた。
「本当に目覚めたんだね。悟の悪い冗談じゃなくて良かったよ。」
「ねぇ傑、オレをなんだと思ってるの?」
「クズ。」
「右に同じく。」
硝子まで、酷くな~い?なんて五条は言うが、実はこの3人本当はとても仲が良いんじゃないかと出かけた言葉たちを飲み込む。一緒にきた夜蛾先生がわざとらしく咳をすると、みんな一斉に口を噤んだ。
「体調はどうだ?」
『ちょっと頭が痛いですけど、もう問題なさそうです。』
「そうか。山田の術式についてだが、正直まだわからないことばかりでね。」
『はい』
「しかし考えていても始まらない。尚且つ、先日の試験では超貧弱だと2人から報告を受けたので、まずは徹底的にシゴきます。」
『へぇ?』
と気のない私の声だけが宙を舞った。