第7章 夏休みは任務です②~大人の階段登る編~
『もうダメ・・・・・っ、一歩も動けない、』
「オレも。」
「ほら花子、立てるかい?私が校舎まで背負ってくから。」
「傑〜オレもおんぶして〜。」
「悟、冗談は顔だけにしてくれよ。」
『てか、五条。途中から本当に殺しにきてなかった?』
寝坊した私が悪いけどさ、なんて付け足して文字通り大の字に寝そべる花子の首筋の赤い跡に気が付いたのは5.6回投げ飛ばした後だった。
それが意味する理由も、なんとなく身体をだるそうにしている根源も、全部分かってしまったら無性に腹が立った。揶揄ってやろうかとももちろん思ったが、オレが投げ飛ばした後には直ぐ傑が花子に駆け寄り腰に手を添える。それさえも面白くなくて揶揄いたいという気持ちはどんどん減退し、変わりにめきめきと湧き上がったのはしょうもない苛立ちで。
「これだから弱いヤツは困るよ。」
『でも竹刀のときは私が一番強かったじゃん。』
「正直びっくりしたよ。私たちが負かされるなんて思ってもみなかったからね。悟もそう思っただろう?」
「竹刀だけな!あとはまだまだひよっこもいいとこだな。」
『ムカつくーーっ!!』
褒めてやればいいものを、とは思う。
でも自分の口から出てくるのは意地悪でトゲのある言葉ばかりで。いつの間にか茜色に染まった空を見ながら、これじゃまるでオレが花子を好きみたいじゃないか、と大きなため息が零れる。
こんなちんちくりん、好きになるはずじゃなかった。いや、なんならまだ好きだとも認めたくもない。だって美人でも巨乳でもないし、なんてたって花子は・・・・・傑の彼女なんだよなあ。
ここ最近のオレはこの行き場のない気持ちが堂々巡り。最強が聞いて呆れてしまう。あれほど傑に愛ほど歪んだ呪いはないと言っていたのに、術師なのに、花子が来る前にその傑とも揉めてしまった。(後半はただのケンカだったが。)
「おーーーい、大丈夫か?」
『あ、硝子!』
「誰も戻って来ないから誰か死んだかと思ったけど・・・」
「悪いね、硝子。みんな生きてるよ。」
「五条はどっか怪我してんの?」
「ナメんな、疲れただけ。」
愛も変わらず煙草をふかす硝子は最近鋭いことを言うので敢えて目を逸らした。