第2章 体術体術ときどき座学
『しょ〜こぉぉぉ〜っ』
「またかよ、仕方ねぇな。そこに横になりな。」
『ダメ、もう一歩も歩けない。』
「ほんとうに貧弱だな。花子となら、私が戦っても余裕で勝てそう。」
転入して早3週間。
朝から晩まで毎日巨体の男2人に投げられて、起き上がっては投げられてを繰り返して。産まれて初めて持った竹刀では合わせる度にボロボロに打たれて。
到底太刀打ち出来ず身体には無数の痣や擦り傷が増えるばかりだった。手にできる血豆も地味に痛い。
それに加えて広いトラックを何週も走って、腹筋や背筋、懸垂などなど様々なトレーニングを課せられ筋肉痛ともなれば、1日を終える頃には文字通り“一歩も歩けない”のである。
ところが、ここ高専には女神様のような女性がいた。彼女は反転術式を使って、まるでウソのようにアザや傷を治してくれるのだ。(筋肉痛は治らなかったが。)そうして毎日徹底的にシゴキ倒された私は、神様女神様硝子様のところに駆け込むのが日課になりつつあった。
「しかしアイツらも花子相手に容赦ねぇのな。」
『今日は五条にすごく遠くまで吹っ飛ばされたのが、一番堪えたかも。今も背中がズキズキする。』
ちゃんと受身が取れてなかったら死んでたと思うもん、と付け足したのは決して冗談などではない。しかし命拾いしたその受身を教えてくれたのも、皮肉ながら五条だった。
シャツを脱ぎ、硝子に背中を診せる。
「すげぇきれいな痣。」
『きれいな痣って何?怖いんですけど。』
「んだよ、話せる元気あんじゃん。」
『ちょ、ちょっと!私、下着なんですけどっ!』
硝子の反転術式で治してもらっている最中に、ノックもせずに堂々と入ってきたのは、“きれいな痣”を作った張本人で。急いで近くにあった大判タオルで上半身を隠す。
「いつも言ってるだろ、ノックくらいしろよ。」
「あ?別にコイツの裸見たって、オレは何も思わないけどね。オレからしたら子供の裸と何ら変わりねぇし。」
『おい!』
「それに朝から晩まで毎日毎日花子の身体をこまなく触ってんだ。今更じゃね?」
なんてデリカシーどころか悪びれもなく舌をだすソイツとは、やっぱり仲良くなれそうにはないと再確認した。