第10章 play 8 ※
独りになった部屋で
タケルは
さっき見た夢のことを思い返していた
忘れたくても忘れられない
遠い記憶
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先に子役として芝居の仕事をしていたのは
カヲルの方だった
ドラマの撮影で
放課後は毎日のようにスタジオに通っていたカヲル
個人事務所でカヲルのマネージャーもしていた母親に連れられて
小学校に上がる前のタケルも
よく一緒に訪れていた
現場に入ると
母親はずっとカヲルの側に付いて甲斐甲斐しく身の回りの世話を焼いた
その他の時間も
常にカヲルの事だけを考えていた
タケルは母親からそんな風に扱われているカヲルの事が羨ましく
"いつか自分も子役の仕事をして
母親に側にいてもらえるようになりたい"と願い続けていた
ある時
家のリビングでカヲルと母親が激しく言い合っていた事があった
幼いタケルにはあまり詳しい内容は理解できなかったが
新しい仕事の件で何かもめているような感じだった
「…あんな仕事2度としたくない…もう嫌なんだよ!」
「……分からない事言わないで頂戴カヲル……あのドラマに出させてもらう為には…これも大切なお仕事なのよ…」
「…どうしてこんな事させるの?お母さんはおかしいよ!」
「……お母さんはアナタの事が大好きなの……だから成功して欲しいのよ…」
「嫌だったら嫌だ!」
「いい加減にしなさい!」
どんなに説得しても言う事を聞かないカヲルに対して
元々感情の起伏が激しかった母親は
棚の上に飾ってあった写真立てを投げつけた
写真立ては壁に当たって
割れたガラスが飛び散った
「………………どうして分かってくれないんだよ……………お母さんなんて大っ嫌いだ!」
カヲルは床の上からガラスの破片を拾うと
鋭い切先で自分の頬に傷を付けた
その時の母親の叫び声は
今もタケルの耳にこびりついていた
その事がきっかけでカヲルは子役の仕事を辞めた
カヲルの頬には今もまだ薄らとその時の傷痕が残っている