第6章 共演者
その日の撮影が終わると
チサトの楽屋にカヲルが訪ねて来た
" 抱いて欲しい " と泣きながら頼んだあの夜以来
チサトはカヲルの事を想っていた
彼の優しい瞳や穏やかな低い声
唇に触れる感触を思い返す度に胸が高鳴った
今朝、5日ぶりにカヲルと会ったチサトは何事もなかったように挨拶をした
けれど気がつくとカヲルの姿を目で追ってしまっている自分がいた
楽屋に来たカヲルは
チサトに用件を伝えた
「……蒼井さん……今日のご予定はいかがでしょうか…」
『………………大丈夫です……』
「……分かりました………では…車でお待ちしております…」
カヲルは静かにドアを閉めて出て行った
『……』
心のどこかでは分かっていたけれど
カヲルは以前と何も変わっていなかった
感情のない顔と事務的な態度は
記憶の中の彼とはまるで別人のようで
チサトは
自分がまだ悪夢の中にいるのだという事を思い知らされた
チサトが駐車場へ行くと
カヲルが車のドアを開けた
『……』
後部座席に乗り込んだ時
すぐ近くから声が聞こえた
「………ふーん……あなたが次のオモチャ…?」